クラウドストレージでのアクセス権限はオンプレミス環境とどう違う?
クラウドストレージならではの問題点とレビューの重要性について分かりやすく解説
クラウドストレージにおける「アクセス権限」 とは、保存されているファイルやフォルダに対して「誰が、どのように利用できるか」を決める仕組みのことです。本記事ではクラウドストレージにおけるアクセス権限について、その設計思想やレビューの重要性について分かりやすく解説します。
目次
クラウドサービスにおける「アクセス権限」の種類
クラウドサービスにおける「アクセス権限」の種類については、操作の範囲と管理の仕組みの2つの観点があります。アクセス権限を適切に設定することで、情報漏えいや不正利用を防ぎつつ、業務に必要な人が効率的に利用できるようになります。
操作の範囲
閲覧(読み取り)権限:
- ファイルを開いて内容を確認できるが、編集や削除はできない。
- 外部共有時などによく使われる。
編集(書き込み)権限:
- 内容を変更したり、新しいファイルを追加・更新できる
- チームで共同作業を行う場合に利用される。
コメント権限:
- 閲覧はできるが、直接編集はできずコメントだけ残せる。
- レビューや承認フローで役立つ。
共有管理権限:
- 他のユーザーへ共有したり、アクセス権を付与・削除できる。
- 通常は管理者やファイル作成者に限定される。
所有権:
- ファイルやフォルダを完全に削除したり、所有権の譲渡までできる最上位の権限。
- すべての操作が可能で、権限自体も変更できる。
- 最も強力な権限であり、誤設定すると重大なリスクにつながる。
管理方式による種類
アクセス権限を「どう割り当てるか」の考え方です。
DAC(任意アクセス制御):
- ファイル所有者が自由に権限を決められる。
- WindowsやUNIXのファイル権限など。
MAC(強制アクセス制御):
- システム管理者によるセキュリティポリシーで一括管理。
- ファイルやフォルダ所有者であったとしても変更はできない。
RBAC(ロールベースアクセス制御):
- 「役職・役割」に応じて権限を割り当てる。
例:管理者、一般社員、閲覧専用ユーザー
ABAC(属性ベースアクセス制御):
- ユーザー属性(部署・役職・端末・時間帯など)やデータ属性に基づいて柔軟に制御。
クラウドサービスならではのアクセス権限に関する問題と対策
アクセス権限の基本的な考え方は社内サーバー(オンプレミス環境)と大きく変わりませんが、クラウドサービス特有の注意点やリスクも存在します。ここではクラウドサービスならではの問題と、その対策について記載していきます。
リンク共有による想定外の公開:
- 「リンクを知っているユーザーが閲覧可」という設定があるため、意図せず全社・外部に公開されてしまうケースがある。
- URLが長いので安全と思いがちだが、転送や検索経由で漏えいするリスクがある。
(対策)
- リンク共有を社内限定にする。
- 有効期限やパスワード付きリンクを利用する。
アクセス範囲が物理的制御ではなく論理制御:
- オンプレミスは社内LANにいないとアクセスできなかったが、クラウドはインターネット経由でどこからでもアクセス可能。
→ 権限や認証が唯一の防御線になる。 - MFA(二要素認証)の有無でリスクが大きく変わる。
(対策)
- 多要素認証(MFA)の必須化。
- IP制限や端末制御を導入。
所有者・権限管理の複雑化:
- 個人アカウントで作成したデータが業務に使われる(=シャドーIT)。
- 退職者が所有者のまま放置
→ 誰も管理できない「孤立データ」が発生する可能性がある。 - クラウド特有の「ファイル所有者」「共有権限」「グループ権限」が絡み合い複雑化。
(対策)
- 管理者が所有権を引き継ぐ仕組みを設定
- 退職時にアカウント削除前の移管プロセスを定義
外部コラボレーションの容易さとリスク:
- クラウドサービスでは外部ユーザーも簡単に招待できる。
- 権限設定が緩いと 外部委託先やパートナー企業に不要なデータまで見られる。
(対策)
- ゲストアカウントを利用する。
- 外部ユーザー権限の定期的な棚卸しをする。
マルチデバイス・BYOD環境での利用:
- PCだけでなく、スマホや私物端末からもアクセス可能。
- ローカルへの自動同期やキャッシュが残り、端末紛失時に漏えいリスクが発生。
(対策)
- MDM/EMMで端末を管理する。
- ローカル保存やキャッシュを制限する。
権限のスプロール(権限の野放図な拡大):
- チームやプロジェクトごとに「とりあえず編集権限を付与」する運用が続くと、誰がどこまでアクセスできるか分からなくなる。
- オンプレミス環境よりも権限の棚卸しが重要になる。
(対策)
- 定期的なアクセス権レビューを実施する。
- ロールベースアクセス制御(RBAC)の導入。
サービス提供側の仕様変更:
- クラウドサービスのアップデートで権限モデルが変わることがある。
例:「共有リンク」の初期設定が変わる、既定共有ポリシーが変更される、など - 管理者が気づかず運用に影響する可能性もある。
(対策)
- クラウドサービスの変更履歴と、提供事業者からの公式アナウンスをしっかりと確認。
- サービスの仕様変更時などは、テスト環境で事前検証を行う。
クラウドサービスにおけるアカウント権限レビューの重要性
クラウドサービスにおけるアカウント権限の定期的なレビューは、セキュリティガバナンス上きわめて重要なプロセスです。これを怠ると権限の管理が甘くなり、情報漏えいや不正利用のリスクが高まります。下記のポイントを参考に、必ず定期的な権限見直しを実施しましょう。
最小権限の維持:
- 人事異動・部署移動・退職などで業務内容が変わっても、クラウド上の権限はそのまま残りやすい。
- 本来不要な権限を持ち続けると、情報漏えいや内部不正のリスクに直結する。
- 定期的に見直すことで「必要最低限」の状態を保てる。
退職者や休眠アカウントの排除:
- クラウドサービスでは「退職者アカウントが残ったまま」という事象が起こりやすい。
- 不正アクセスの踏み台や、管理不能な「孤立データ」につながる。
- レビューでアカウントを停止・削除し、所有権を移管。
外部ユーザーアクセスの監視:
- 取引先・委託先とのコラボレーションで外部アカウントにアクセス権を与えることがある。
- プロジェクト終了後もアクセスが残り続けるケースが多い。
- レビューで不要な外部共有を削除し、必要最小限に限定。
権限スプロール(権限の膨張)の防止:
- プロジェクトごとに「とりあえず編集権限を付与」→ 時間とともに誰がどこまでアクセスできるかわからなくなる。
- 定期的に棚卸しすることで権限の透明性を確保。
監査・コンプライアンス対応:
- ISMS(ISO27001)、SOC2、金融業法など、多くの規制や監査要件では「アクセス権限の定期的レビュー」が必須。
- レビュー記録を残すことで監査証跡になる。
インシデント時のリスク低減:
- 権限が肥大化したまま不正アクセスが起きると被害範囲が拡大。
- レビューで権限を適正化しておけば、万一の際の影響を最小限に抑えられる。
クラウドサービスのアクセス権限は、どこからでも利用できる利便性や外部とのコラボレーション、リンク共有など新しい機能が特徴であり大きなメリットです。一方で、意図しない情報公開や所有者不明データ、権限スプロールといった、オンプレミス環境では起きにくいリスクが発生しやすい点も注意が必要です。セキュリティを向上させるためにも、定期的なアカウント権限のレビューを欠かさずに行うようにしましょう。
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