権限昇格攻撃とは?
システムが乗っ取られる?機密情報を奪われてしまうのは何故?
権限昇格攻撃の特徴や原因、対策などについて分かりやすく解説
権限昇格攻撃とは、本来は与えられていない高い権限(管理者権限など)を、不正な手段で取得するサイバー攻撃のことです。本記事では権限昇格攻撃の基本的な特徴や原因だけでなく、検知方法やセキュリティ対策などについて分かりやすく解説いたします。
目次
- まず、権限昇格攻撃とは何か?
- 権限昇格攻撃はどのように始まるのか? 侵入経路は何か?
- 権限昇格攻撃を成功させてしまう主な原因
- 権限昇格攻撃の検知方法
- 権限昇格攻撃を防ぐにはどのようなセキュリティ対策が必要か?
まず、権限昇格攻撃とは何か?
権限昇格攻撃とは、本来は与えられていない高い権限(管理者権限など)を、不正な手段で取得するサイバー攻撃のことです。多くのシステムやアプリケーションでは、ユーザーごとに権限が割り当てられており、アクセス可能な範囲や実行できる操作が制御されています。しかし、攻撃者に脆弱性や設定ミスを悪用されてしまうことで、本来付与されるはずのない高い権限を不正に取得され、機密情報へのアクセスや改ざん、漏洩などの重大な脅威へとつながるおそれがあります。
権限昇格攻撃の種類
権限昇格攻撃は、大きく分けて垂直方向と水平方向の2種類に大別されます。
垂直方向の権限昇格
一般ユーザーが、自分よりも権限の高いユーザー(管理者、root、Systemなど)の権限を不正に取得する攻撃を指します。
- 目的:システム設定の変更、ソフトウェアのインストール、機密データの全取得など。
- 攻撃例:Windowsの一般ユーザーが、OSの脆弱性を突いて管理者権限でコマンドを実行する。
水平方向の権限昇格
自分と同等の権限を持つ「別の一般ユーザー」のアカウントに不正にアクセスする攻撃を指します。権限自体は昇格しないものの、垂直方向の権限昇格とセットで語られる攻撃です。
- 目的:他人の個人情報、メール、プライベートなファイルの閲覧など。
- 攻撃例:ユーザーが自分のプロフィール編集画面のURLに含まれるユーザーIDを書き換え、他人のユーザーIDを指定することで、別ユーザーの設定画面へ不正にアクセスしする。
権限昇格攻撃はどのように始まるのか? 侵入経路は何か?
権限昇格攻撃は、まずシステム内部への侵入から始まります。攻撃者は最初から高い権限を持っているわけではありません。まずは入りやすい隙間から低い権限を不正に取得し、そこを拠点にしてから権限昇格を狙います。
主なきっかけとなる侵入経路(攻撃初期)は以下の通りです。
マルウェア感染(フィッシング詐欺など)
最も一般的なきっかけです。
攻撃者は従業員に巧妙なメールを送り、添付ファイルやメール内のリンクを開かせることで、従業員のPCをマルウェアに感染させます。これにより、従業員のPCが攻撃者の支配下に置かれます。攻撃者はこの「従業員の持つ一般ユーザー権限」を持つPCを用いて、システム内部の脆弱性を探し始めます。
Webアプリケーションの脆弱性
外部に公開されているサーバーの「穴」がきっかけになります。
Webサイトの入力フォームなどに不正なコードを送り込みます(SQLインジェクションやOSコマンドインジェクションなど)。これにより、サーバーを動かしている「Webアプリ用アカウント(通常は制限された権限を保有)」を乗っ取ります。ここからサーバーのOS本体の管理者権限を狙いに行きます。
脆弱なパスワードや認証情報の漏洩
認証情報を盗む、あるいは推測することがきっかけになります。
攻撃者は、まず一般ユーザー権限での不正ログインを狙います。一般ユーザーとしてでもシステムへのログインに成功さえしてしまえば、外部からは見えない設定ミスや、古いソフトウェアに残された脆弱性を、内部から時間をかけて探索できるようになります。
設定ミスで内部情報が公開されている場合
設定ミスにより侵入経路が開きっぱなしになってしまっていた場合です。
例えば、クラウドストレージが「全ユーザー閲覧可能」になっていたり、管理パネルがインターネットから誰でもアクセスできる状態になっていた場合です。そこにある設定ファイルから「データベースの接続情報」などを盗み取り、それを手がかりに権限を広げていきます。
物理的な接触や内部不正
企業内に攻撃者やその協力者がいた場合です。
放置されたPCにUSBデバイスを差し込んだり、悪意のある内部の人間が自分の権限でログインした場合などが挙げられます。物理的にアクセスできる場合、再起動して特殊なモードで立ち上げることで、権限昇格の難易度が劇的に下がることがあります。
権限昇格攻撃を成功させてしまう主な原因
攻撃者による侵入後、権限昇格攻撃へと発展してしまう原因は、大きく分けて「システムの脆弱性」「設定の不備」「管理・運用の甘さ」の3つに分類されます。攻撃者はこれらを組み合わせて、一般ユーザー権限からより高い権限へと上り詰めていきます。
原因1.システムやソフトウェアの脆弱性
プログラムの設計や製造段階で入り込んだバグを原因としたものです。
- OSのカーネル脆弱性:OSの核心部(カーネル)にあるバグを突くと、一気に最高権限(rootやSYSTEM)を奪われることがあります。
- バッファオーバーフロー:プログラムが想定していない大量のデータを送り込み、メモリを溢れさせて、本来実行されないはずの不正な命令を「システム権限」で実行させます。
- DLL/ライブラリ・ハイジャック:Windowsなどで、プログラムが読み込む「部品(DLLファイル)」を偽物にすり替える手法です。正規のプログラムが管理者権限で動く際、勝手に偽の部品も管理者として実行されてしまいます。
原因2.システムやプログラムの設定ミス
システムは安全でも、使い方や設定が間違っていると侵入口が開いたままの状態になります。
- 過剰なアクセス権限:「誰でも書き換え可能なシステムファイル」や「全ユーザーに自由なアクセスや捜査権限が付与されているフォルダ」などがそのまま放置されているケースです。
- SUID/SGIDの誤用(主にLinux系OS):Linux系OSのSUIDやSGIDは、特定のプログラムを「誰が実行しても一時的に所有者(またはグループ)の権限で動かす」ための仕組みですが、ここに脆弱なプログラムが設定されていると、そのプログラムを足掛かりに権限昇格攻撃を受けるおそれがあります。
- パスワードが初期状態(デフォルト)のまま:ネットワーク機器や管理ツールを「admin / admin」などの初期パスワードのまま運用していると、攻撃者に容易に管理者としてログインされてしまいます。
原因3.運用・管理上の甘さ
人間の行動やルールの不備が、攻撃者に管理者アカウントを奪われる原因になります。
- パスワードの使い回し:一般ユーザー用と管理者用のアカウントで同じパスワードを使い回していると、一般ユーザー用アカウントのパスワードが漏えいしただけで管理者アカウントまで乗っ取られてしまいます。
- 多要素認証(MFA)の未導入:パスワードだけでログインできてしまうアカウントは、攻撃者にとって格好の標的になります。
- 修正パッチの適用漏れやアップデートの放置:たとえメーカーが権限昇格の不具合を修正するパッチを提供していても、適用が遅れれば、その時間差を狙って攻撃される可能性があります。さらに、メーカーが公開した修正内容を手がかりに、攻撃者が新たに攻撃手法を編み出すケースもあります。
上記のような原因が放置されてしまう理由として、多くの場合「利便性とセキュリティがトレードオフの関係にある」点が挙げられます。例えば、
- 厳しく制限しすぎると仕事がしにくい。
- パスワードを使いまわすと楽。多要素認証の導入は手間がかかる。
- 古いソフトを動かすために、あえて権限を緩めている。
- システムの全容が複雑すぎて、どこに穴があるか管理者が把握できていない。
- 業務で使われているハードウェアとソフトウェア、及びそのバージョンについて記録していない。
などにより、セキュリティ対策が行われていない可能性があります。
こうした運用上の都合が積み重なることで、権限昇格攻撃に限らず、あらゆるサイバー攻撃の格好の餌食となってしまいます。
権限昇格攻撃の検知方法
権限昇格攻撃はシステム内部に侵入された後に行われるものなので、「誰が・いつ・どの権限で・何をしたか」を多層的に監視することがポイントになります。
ログを分析
最も基本的かつ重要な手法です。攻撃者が権限を変えようとした痕跡を探します。
監視対象検知のポイントとしては、
- 新しい管理者の作成履歴、既存ユーザーの権限グループ(Administratorsやsudo)の変更履歴。
- 一般ユーザーによるsudoやrunasコマンドの失敗ログ。
- グループメンバーシップ変更履歴。
- RBAC / IAM ポリシー変更履歴。
等が挙げられます。
不自然な挙動の検知
ログを分析するだけでなく、EDRなどを用いて業務における日常的な動作をもとに「いつもと違う不自然な挙動」が起きていないかをリアルタイムで監視します。単独の記録では見逃されがちなため、相関分析が重要になります。
- 権限と操作内容の不一致を検知:一般ユーザーによる管理者専用機能の実行。
- 不審なコマンドの実行:権限やアカウント名を確認するコマンド(whoami /all や id)の実行。
- ユーザー行動分析(UBA):例えば「普段オフィスファイルしか開かない一般社員のアカウントが、急にシステムディレクトリにアクセスし始めた」のような振る舞いの変化。
- 権限昇格後の挙動変化を検知:内部ネットワークスキャン、管理ポート(SSH / RDP)への接続増加、設定ファイル・セキュリティ設定の変更などが行われていないかを監視。
時間・頻度・場所の異常を検知する
- 時間帯:休日や深夜など不自然な時間帯に管理者アカウントへのログインが行われた。
- 頻度:短時間に何度も管理者ログインを試行している、あるいは短時間に連続で特権操作が行われた、など。
- 場所:通常とは異なるIP / 国からのアクセス。
権限昇格攻撃を防ぐにはどのようなセキュリティ対策が必要か?
権限昇格攻撃への対策は、単一のツールを入れることではなく、さまざな観点から複数の壁を作ることが重要です。
最小権限の原則
これが最も根本的かつ強力な対策になります。
- 業務に必要な権限のみ付与:各アカウントには業務に必要な権限のみを付与するようにし、必要な時にだけ一時的に権限を追加する運用にします。
- 一般アカウントと管理者専用アカウントの分離:管理業務を行う際は、一般業務を行うアカウントとは別の「専用の管理者アカウント」を使用するようにします。また、管理者アカウントのままで一般業務を行うのは禁止にします。
- システムやアプリへ付与する権限も制限:システムやアプリが動作するための専用アカウントには、その動作に必要な最小限のディレクトリへのアクセス権と操作権限のみを与えます。
システムの脆弱性と設定の管理
攻撃者が狙う弱点を埋めます。
- 迅速なパッチ適用: OOSやブラウザ、ミドルウェアに存在する脆弱性は、権限昇格攻撃に限らず、あらゆる種類のサイバー攻撃の標的となります。そのため、修正プログラムが公開された際には、可能な限り迅速に適用します。
- OSやサーバーの設定を強固に:不要なサービスやポートは停止。Windowsでは「User Account Control(ユーザーアカウント制御)」を最高レベルに設定します。Linux環境では、「SUID/SGID」属性が付与されたファイルを可能な限り削減します。
- 強力な認証(MFA)の導入:アカウントのログインには、必ず多要素認証(MFA)を要求するようにします。多要素認証であればパスワードが盗まれたとしても、管理者アカウントへの不正ログインを阻止できます。
特権アクセス管理(PAM)の活用
特権アクセス管理を活用して、認証情報の取り扱いを厳重にする手法です。
- 特権は一時的に付与:管理者パスワードを直接ユーザーに教えず、管理システム経由で一時的に貸し出す仕組みです。
- パスワード管理の自動化:管理者パスワードを定期的に自動で生成・変更し、使い回しを防ぎます。
- セッションの記録:特権アカウントで行われた操作(コマンド入力など)をすべてログで記録し、後から監査できるようにします。
攻撃手段の無効化と検知
攻撃者が使う手法を使えなくします。
- PowerShellやコマンドプロンプトの制限:一般ユーザーによる強力なOSコマンドの実行を禁止(または監視)します。
- EDR(Endpoint Detection and Response)の導入:EDRには検知機能だけでなくブロック機能もあるので、不自然な権限変更の動きをリアルタイムでブロックできる環境を整えます。
- メモリ保護機能の有効化:バッファオーバーフローなどの攻撃を防ぐためのOS標準機能を有効化する。例えば、データ実行防止機能(DEP)やメモリアドレス空間のランダム化機能(ASLR)を有効化します。
権限昇格攻撃の目的は、内部システムの管理者権限などを奪い取り、機密情報への不正アクセスや改ざんを行うことにあります。これに対する対策の本質は、「権限を与えすぎない」「脆弱性を放置しない」「変化を見逃さない」という3点に集約されます。設計・実装・運用のいずれかが欠けると対策効果は大きく損なわれてしまうため、技術的な防御だけでなく、運用ルールや監視体制を組み合わせて「最小権限の原則」を徹底することが何より重要です。
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