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能動的サイバー防御とは? 対象となる企業は? 有識者会議の内容や問題点を独自の目線でわかりやすく解説

能動的サイバー防御とは? 対象となる企業は?
有識者会議の内容や問題点を独自の目線でわかりやすく解説

能動的サイバー防御(Active Cyber Defense」とは、従来の防御的(受動的)なサイバーセキュリティ対策を超えて、自ら積極的に脅威に対処・抑止・無力化しようとする防御手段のことです。本記事では能動的サイバー防御について分かりやすく解説します。

目次

 

能動的サイバー防御の概要

能動的サイバー防御とは、サイバー攻撃に対して積極的・予防的に対応する防御手法のことです。単なる防御や検知にとどまらず、攻撃者の意図や目標、攻撃経路などを分析した上で、先回りしてシステムやネットワークの設定を変更したり、意図的に偽の情報や罠(ハニーポット、デコイ等)を仕掛けて相手を混乱させたりすることも含まれます。

従来の受動的なセキュリティ対策(ファイアウォールやアンチウイルスなど)が被害の最小化を主眼としているのに対し、能動的サイバー防御は攻撃の兆候をつかんで未然に脅威を封じ込めたり、攻撃者の行動範囲を限定・監視した上で本格的な攻撃を抑止したりと、一歩踏み込んだ対応を実施します。

日本国内でも重要インフラ防御や国家的セキュリティ政策の一環として注目されています。

 

能動的サイバー防御のメリット

以下に、能動的サイバー防御を導入することで得られる代表的な利点をまとめます。

早期発見・迅速対応が可能:脅威を受動的に待つのではなく、自ら探しに行くことで、攻撃の初期段階や兆候を早期に察知できる。

高度な攻撃に対抗可能:国家や組織的な高度持続型攻撃(APT攻撃)など、従来のセキュリティでは防ぎにくい攻撃への対処力が高い。

攻撃者の手口や意図を把握できる:ハニーポットや欺瞞技術により、攻撃者の行動を観察し、戦術・ツール・手法(TTPs)を分析できる。

セキュリティインテリジェンスの強化:収集した情報を活用して、他の防御システムや将来の対策に反映することができる。

攻撃者の活動を妨害・遅延できる:フェイク情報や環境で攻撃を撹乱・誤誘導し、本来の標的への到達を妨げることが可能。

防御の柔軟性と適応性が高い:状況に応じてリアルタイムで防御方針や対応を動的に調整できるため、変化する脅威にも強い。

攻撃抑止効果:攻撃者が能動的サイバー防御により発見・追跡されるリスクを認識すれば、攻撃そのものを思いとどまる可能性もある。

 

能動的サイバー防御の対象となる企業

能動的サイバー防御の対象となる企業(=積極的な防御が必要とされる企業)は、主にサイバー攻撃による被害が大きな影響を及ぼす業種・企業です。以下に代表的な分野を挙げます。

電力会社、ガス会社、水道、通信、交通などの重要インフラ事業者:社会機能を支えるライフラインインフラを提供しているため、攻撃されると国家安全保障や市民生活に重大な影響を与える。

防衛、航空、宇宙関連企業:国防関連の知的財産や運用情報がサイバー攻撃の対象になりやすい。

金融機関、証券取引所、保険会社、決済事業者金融資産・個人情報を扱っており、サイバー攻撃のリスクが高い。また、金融システムが停止すれば市民生活だけでなく経済にも深刻な打撃を与える。

医療関係機関、製薬会社、バイオテクノロジー企業:人命に関わるシステムや、貴重な研究データを保有している。

クラウドサービス、通信事業者、検索エンジン提供企業など:IT分野におけるインフラ提供者であり、幅広い企業や個人の情報を保持している。

グローバルに展開する製造業、商社:サプライチェーンが広いため、標的にされる対象も広い。先端技術を保有している企業はその技術が狙われる。

官公庁、地方自治体国家機密や行政サービスに関わる情報を保持。また、官公庁などの行政システム開発を担うベンダーも高度な情報を持っているため狙われやすい。

 

対象となる企業の共通点

高い社会的責任:攻撃によって大きな混乱を招く可能性がある
高度な知的財産を保有:経済スパイ活動の標的になりやすい
多くの個人情報や機密情報を保持:データ漏洩の影響が甚大
外部との接続が多い:サプライチェーン経由の攻撃リスクがある

 

能動的サイバー防御の問題点

法的グレーゾーン/違法リスク:

  • 日本では刑法や不正アクセス禁止法などにより、相手のシステムへ不正にアクセスする行為は原則禁止のため、反撃的行動(攻撃元へのハッキングなど)は違法の可能性が高い。
  • 政府による「能動的防御」が許容される範囲も、明確な基準がない。
  • 攻撃元のサーバーを無力化する行為についても、攻撃元のサーバーが海外にあれば国際法問題に発展。

 

国家間の緊張を高めるリスク:

  • 能動的防御を行うと、意図せず外国政府や組織に損害を与える可能性がある。
  • 「サイバー攻撃」と誤解されれば、外交問題に発展する恐れ。

 

誤検知・誤反応のリスク:

  • 自動化された対処システムによって誤ったターゲットを反撃する可能性。
  • 誤検知に基づいて他の企業やインフラに被害を及ぼすと、法的・社会的責任を問われる。

 

高度なリソースが必要:

  • 能動的防御には高い技術力・専門知識・運用体制が必要であり、中小企業にとっては導入・維持が困難。
  • セキュリティ人材の不足という社会的課題も影響。

 

責任の所在が不明確:

  • 能動的防御を民間企業が主体的に行って良いのか、それとも国家主導であるべきかという点が曖昧。
  • 被害が拡大した場合、「誰が責任を取るのか」が不透明。

 

攻撃者の特定が難しい:

  • サイバー攻撃は匿名性が高く、攻撃元の偽装(プロキシ・踏み台など)が常態化している。
  • 攻撃者の真正な身元が不明なまま「反撃」すると、無関係の第三者に被害を与える可能性も。

 

監視社会化への懸念:

  • 「能動的防御」の名の下に、企業や政府が大量の通信情報を収集・監視することへの懸念。
  • プライバシー権・通信の秘密とのバランスが課題。

 

日本における能動的サイバー防御について、有識者会議の状況

日本政府は国家安全保障戦略(2022年改定)で「能動的サイバー防御」の導入方針を明記しました。
2024年に有識者会議が立ち上げられ議論を重ねていますが、2025年時点では民間の関与・法的整備・監視と自由のバランス・サイバー人材の不足・国民への説明など、多くの論点が未解決の状態です。

サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議 (内閣官房)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cyber_anzen_hosyo/index.html

 

能動的サイバー防御は、「攻撃を受ける前に止める」「攻撃者をあえて誘い出して分析する」という 積極的なセキュリティ戦略です。今後、日本でも重要インフラや政府組織を中心に導入が進む見込みですが、法的整備と国民的議論が不可欠です。

 

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